京都の食品会社、京醍醐味噌(株)の役員報酬が不相当に高額とした国税局の処分について争った事件であるが、ついに東京地裁は京都の食品会社の訴えを棄却した。6年前にも沖縄の酒造会社の高額役員報酬の件で裁判になったことがある。会社は「社長・経営陣の会社への貢献度を考えれば相当な額」だと主張したが、裁判で「同業他社と比較した国税局の判断は妥当」と国税局を支持した。私は役員にいくら報酬を出そうが、社員や株主が文句を言うのがわかるが、国が否定するのはどうかと思う。先進国で「あなたの給料は高すぎる」という国はあるだろうか、税務署は他社と比較してと、いつも口で言うが、どの会社が他社と比較して、社長の給料を決めているのか、そもそも税務署がその会社の社長の働き・貢献度をどこで見ているのか、朝から晩まで働いている社長と、毎日ゴルフや飲み会に明け暮れている社長の区別はついているのだろうか、民間の報酬に国が口をはさむ日本、ゴーンの年間報酬は20億円、大谷翔平選手の年間収入は85億円、これらについて国税当局は同業者に比較して高いから何らのペナルティーを科すのだろうか。さすがに日本商工会議所は「企業間の格差は当然であり、役員報酬は全額損金算入とすべき」と見解をだしている。経団連も「損金算入できる役員報酬の上限額を、実質的に後出しで否認すべきでない」経営者にとって、自分の給料の上限額を国に決められる筋合いはないであろう。
このブログは税務職員が多数読んでくれている。時々職員から「先週のブログは面白かった」とか声をかけてくれるのである。しかし、あえて言うと、この問題で考えるに、国はアホである。今どき、高い報酬で租税回避する会社はいない。安い報酬だと企業利益は大きくなるが、法人税等はせいぜい払っても利益の35%である。しかし高額な役員報酬を払えば、その分、会社の利益は減るが、もらった役員には55%の所得税等がかかる。1億円に対し会社の法人税だと3500万円しか取れないが、個人だと5500万円も取れる。国の歳入から見たら、役員報酬を青天井にする方が得だ。むしろ「この会社の役員報酬は低額」だと指摘したほうがいいのである。京都の会社は最高裁まで争った方がいい。日本の資本主義のあり方が問われる問題でもある。
☆ 推薦図書。
恩田饒著 「実録バブル金融秘史」 河出書房新社 1980円
著者は元大和証券常務取締役でバブル当時のMOF担でもあった。いまや証券界、銀行界、大蔵省、そして産業界、あと数年で、あの渦中の出来事を知る人はいなくなってしまうのではないか、様々な事件の裏で何が起きていたのか。本当に悪いのは誰なのかを事件を通して書いている。リクルート事件、損失補填、住専問題、大蔵省のノーパンしゃぶしゃぶ接待、山一証券倒産、ライブドア事件、リーマンショックなどなど。1989年12月29日日経平均株価は3万8915円の高値を付けた。その年「世界の時価総額10大企業」に日本の企業はなんと7社も名を連ねていたが、平成が幕を閉じた時には1社も入っていなかった。日本企業の最高はトヨタ自動車の47位である。バブル崩壊後の平成時代は、回生なき「失われた30年」この貴重な教訓を生かすべき本書が書かれたとしている。60歳以上の人には甦るものがある著である。