日本は新しい首相が誕生し、直後解散で衆議院選挙が始まった。一方アメリカの大統領選挙も残りわずか3週間となり、トランプ氏やハリス氏の選挙活動も最終段階だ、アメリカは日本と違って予算も税制も具体的に国民に提示しないといけない。日本のように「老後安心した生活を送れる社会に」とか「若者が子育てを無理なくできる国に」だとかはアメリカでは通用しない。先日トランプ氏はウオールストリートジャーナル(WSJ)のインタビューに対し、海外居住のアメリカ人に対し、2重課税を避け、税金を下げるという趣旨のことを述べた。トランプ氏は税金の引下げに対しては、今まで、年金、チップ、残業代を非課税にすると述べてきたが、実は具体的な言及を避けてきた。
アメリカ市民権者及びグリーンカードホルダーは、アメリカ国外に居住していても、アメリカに居住している時と同様に、その者の全世界の所得をアメリカのIRSに申告を行わなければならない。これは日本のように、その者の住んでいる国で税金を払えばよいという税法と大きく異なる。例えばドジャースの大谷もアメリカで所得税の申告をし、アメリカで税金を払えば済むが、アメリカは自国民に対してそうはいかない。そもそもアメリカの税法は、その昔、南北戦争の費用を工面する為に制定された1860年代の古い所得税法に基づくものである。現在、海外に住むアメリカ人は約440万人と推定され、その内投票権を持つ18歳以上は約280万人と推定されるが、トランプ氏は彼らの票を取り込もうと考えているようである。但し、海外居住のアメリカ人に対しては12万6500ドル(1800万円)までの収入に対し所得控除が認められており、日本に住んでるアメリカ人だと、外国税額控除もあるので、アメリカでの税率が日本(海外居住地)での税率よりも高い場合はアメリカのみでの税金を納めることになるが、現実は日本の方が税率が高いので、そうではない。そうであれば2重課税にはならないので、今の所、彼の意図はよくわからない。しかし国によって税率が異なるので、かなりの高額所得者及び年金等の収入のある納税者には、2重課税になることも考えられるが。
アメリカ人の海外居住者にとって問題なのは、2重課税よりも寧ろ、海外金融口座や海外の会社で役員をしている者や、一定以上の会社持分がある等の場合、その開示フォームを提出する義務があり、これが厄介でうんざりする。また提出していない場合のペナルティが大きく、このコンプライアンスにコストがかかる。一方で、トランプ氏のアイデアが合法になるとすれば、今度は個人所得税のきわめて低いモナコのような無税国もしくは低税率の国々へ出ていくアメリカ人が激増すると思われる。
アメリカでは、最近ではまた相続税専門の弁護士は大変忙しいようである。現在アメリカの相続税基礎控除額は1361万ドル(20億円)(日本は4800万円ほど)、インフレ率に連動しているので基礎控除は2025年には1399万ドル(21億円)となる予定だが、もし議会で何もしなければ、時限立法の基礎控除であるので、2026年には基礎控除額は2017年の水準である550万ドル(8億円)に戻るので、大きな減額となり、大変な騒ぎとなる。そこで多くの富裕層は撤回不可能なトラストを作成し、そこに資産を移転している。(この撤回不可能信託Irrevocable Trustは日本の信託にはない)このようなことは2012年オバマ大統領時代にもあった。ブッシュ大統領時代の相続税減税政策が2012年になくなり、相続税控除額も500万ドルから100万ドルに減額されるのを恐れ、トラストの作成が盛んに行われたが、そのまま500万ドルの相続税基礎控除額がアメリカ議会の承認を経て継続された。この過去を鑑み、2024年は年間贈与税基礎控除18000ドル(270万円)まで(日本では110万円)贈与は1361万ドル(20億円)の相続税・贈与税基礎控除枠にはカウントせずに受贈者に贈与出来るので、取り敢えずこの方法で昔のようにマメに毎年自分たちの資産を少しずつ子や孫に贈与する人も出てきているらしい。また大統領選後を待ち相続税対策を行おうという人たちも戦々恐々としている。アメリカでは税制は大統領選に、切っても切り離せない重要な問題なのである。一方日本では悲しいかな相続税はおろか所得税の議論もない。党首討論でもせいぜい消費税率をどうするかをいうだけで、税制の議論は国会の予算委員会ですらない。政策無き議員が多すぎる。[政治とカネ」の問題が解決できれば日本は豊かになるのだろうか?税制に無関心の、これでも国会議員が日本では勤まるのが不思議である。先進国首脳の不思議の一つでもあるらしい
☆ 推薦図書。
伊賀瀬道也著 「血管のアンチエイジング」 文藝春秋11月号 1100円
著者は愛媛大学抗加齢医学講座教授で高血圧、糖尿病、認知症、腎臓病、心臓病を防ぐにはというテーマの本だが、健康な男女を長年調べたところ44歳と60歳のタイミングで急激な老化現象が生じることが分かった。これは大動脈の動脈硬化が顕著に表れ始める時期であり、動脈硬化が生じると、全身の老化が加速し病気も多発するようになる。そして60歳頃になると、毛細血管の数が20代の頃に比べて6割まで減少、その結果高血圧になりやすく、見た目もぐんと老け込むことになる。さらに80歳になると男性は筋肉量急激減「80歳の壁」に陥る。そうならないため、血管を柔らかく若返る食材はどういうものが適切なのか、生活習慣としてどのようなことをすればよいのかを書いているが、要は運動と食事が大切だという。