相続税対策のため生前贈与する人は多い。日本の相続税の最高税率が55%であり、しかも標準所帯での非課税枠は4800万円であるため、きちんとした生活を営んできた家庭には相続税がかかる。そのため1年間110万円ならば贈与税がかからないとして、その枠内で贈与を繰り返し行っている人もたくさんいる。しかし親が子にその枠内に収まらなくっても、贈与税がかからない贈与がある。それは「教育費」と「生活費」の贈与である。子が授業料や入学金、はたまた塾の料金、もっと言えば高額な海外留学資金をいくら親が出しても贈与税の対象にならない。生活費もそうである、昔は結婚費用や新婚旅行代も親が出し、結納金や指輪までも親が負担していたが贈与税がかかったことはなかった。さらに学校を卒業して就職もせず稼ぎもしない子の生活費を親が面倒見ても、これまた贈与税がかからない。
この度の事件は親が子に生活費や学資として毎月50万円程度、さらに時々もっと多額の現金を渡していたのが否認されたのである。税法にはいくらまでなら贈与税かからない、という金額の上限は設定していない。国税不服審判所に訴えた親はこう言っている「別に住んでいる子に将来の生活費及び医学部に進学する子のための学資等や、婚姻費用の前払いであり、社会通念上相当と認められる範囲の金銭の交付であるから、贈与には該当しない」「生活費、学費等に充てるためにした社会通念上相当と認められる金銭の交付は親族間の扶養義務等の趣旨に鑑み、国税徴収法39条に規定する贈与には当たらない」として国税不服審判所に訴えたのである。子は収入がなく結婚をしている。そのため毎月親が生活費50万円、将来的には入学金や学資のためと称してこの夫婦にかなりの額を支援していた。国税不服審判所は生活費の支援はいくらまでOKという判断をしていないが、否認されたのは「学資の支援は、具体的な支払いの予定がなかった」という点に着目して課税したのである。生活支援費は大丈夫だったが、まだ確定していない入学金はダメ、という国税の判断であった。読者これを機に相続税対策を考えてはどうかと思うのである。一つのヒントを国税当局は与えたのではないか。
☆ 推薦図書。
夫馬賢治著 「データでわかる2030年雇用の未来」 日本経済新聞出版 1100円
我々の社会は大きく行き詰まっている。出生率の低下、気候変動の問題などなど。これらに対処するためには、「ウェディングケーキ・モデル」というのがあって、世の中の状況を「経済層」「社会層」「環境層」に3分類し、その繋がりを表現したもので、例えば太陽光発電パネルの製造には鉱物資源が大量に必要になる。しかし、その採掘には生態系の破壊につながる。そのため鉱物資源の採掘を減らす取り組みとして「サーキュラーエコノミー」(循環型経済)という考え方がある。このサーキュラーエコノミーが進めば天然資源に関する雇用は減る。しかし他方でリサイクルや修理などで雇用は増える。これらを試算した結果、ブラジル、ロシア、インド、インドネシア、中国、南アフリカで2040年で0.1%の雇用減少、その他の後進国で0.2%の雇用減少となるという。少しわからないが電車内で読める。