日本より早くアメリカでは1月27日より確定申告のシーズンが始まったが、トランプ大統領政権下、6000人以上の税務署員がクビになったとのニュースが全米に流れた。Forbesによれば、解雇された税務署員の内訳では中小企業担当署員が3500名程度、残りは勤務1-2年の署員だと報道されている。テレビのABCニュースでは最終的には1万5000人ほどが削減されるのではと報道している。手厚く保護されている国家公務員である日本の税務署員とは大違いである。IRS(国税庁)はバイデン大統領の下、2022年に発効した Inflationary Reduction Actより、今後10年間で800億ドル(10兆円)もの予算がつき、コンピューターシステムの近代化や人員増員を進めてきた。2018年には7万5000人を下回った署員数は2023年には9万人までに復活した。かつて1990年代10万人を超えていた署員数には及ばないが、着々と署員数を増やしてきた。ここに来て署員削減が進むとなると、今までカスタマーサービス(税務相談)に電話をしても10回に2-3回しか繋がらなく酷い状態で、アメリカ国民から苦情が出ていたが、削減後は全く繋がらなくなるだろうことは想像に難くない。
トランプ政権は、IRSの出来の悪い署員にはクビになるか、それとも国境に行ってもらうと言っているが、どうしてIRS税務署員が国境に行くのか?日本人には理解できないだろうが、解説をすると、IRSには犯罪取締課がある。ここに3000人以上が配属されており、資金洗浄等犯罪組織がらみの脱税を取り締る為、銃の携帯が許可されている。日本では考えられないがアメリカの税務署には自動小銃などが配備されている。アメリカの国土安全保障省は財務省に対し、これらの犯罪取締課に対し不法移民の取り締まりの任務も行うよう命令したのである。まさかIRS税務署員が、銃を持って不法移民の取り締まりを行うとは、さすがのアメリカ国民も思っていなかった。
更にトランプ政権のイーロン・マスク氏率いる政府効率化省(DOGE)は、IRSの根幹となるIntegrated Data Retrieval System (IDRS)へのアクセスを求めているが、財務省も含め多くの議員も反対をしている。IDRSには、アメリカの納税者の名前、住所、所得、Social Security 番号、金融口座情報、家族関係、医療費、雇用主、さらには税務調査を過去に受けたか等の個人情報がある。困ったことには、マスク氏の競争相手となる法人情報もあり、政治的に利用される可能性も高い上、海外のハッカーにより個人情報が漏洩される可能性も高くなる。IRS内部でもIDRSにアクセス出来る署員が特定されていて、今後問題が大きくなる可能性がある。
そもそも、歴史的には1924年のRevenue Act of 1924により確定申告情報はPublic Recordとして開示が許されていたのが1970年代前半ニクソン大統領は自分の政敵の確定申告書を探し出し、攻撃し、自分たち友人の確定申告書は税務署が守るという発言をした。そのようなことに忠実な者だけを税務署長に選ぶとしてきたが、実際は、そのようなモラルに欠ける行動は出来ないとし、多くの税務署長がニクソン大統領によりクビになった。しかし、1973年にニクソン自身がその標的となり、彼の確定申告書がIRS内部から流失、そこで476,431ドルもの税金が未納になっていることが発覚し、政治的なダメージを受けた。彼自身は1974年のWatergate事件で失脚しているが、これを機に1976年以降は行政府が確定申告書へのアクセスをコントロール出来ないようになり、個人の確定申告書は機密に扱われるようになったのである。これに反してのトランプ大統領周辺の、このような動きが、政治生命にかかわるようになるかもしれないとアメリカのメディが懸念している。
☆ 推薦図書。
冨山和彦著 「ホワイトカラー消滅」 NHK出版 1030円+税
人手不足なのに、なぜ人が余るのか?私たちは働き方をどう変えるべきか、少子高齢化による深刻な人手不足とデジタル化の進展による急激な人余りが同時に起きつつある日本社会。人手不足はローカル産業で生じ、人余りはグローバル産業で顕著に起こる。これまでの常識に捉われるホワイトカラーは、生き残る選択肢がほとんどなくなってゆく。解決には、今まで高生産性、高賃金とされていたホワイトカラーからのジョブシフトをスムーズに進めエッセンシャルワーカー、ローカル産業のノンデスワーカーが高度化され、生産性と賃金が高くなる必要がある。この変化を実現することが、これからの日本に託された課題である。と書いてある。