アメリカなどでは、多国籍企業があまた存在する。これらの企業は本社がアメリカで、子会社は何十か国に散らばっている。子会社が利益をあげれば、その利益は親会社に配当として還元される。子会社の利益は、その所在地国で法人税課税された後の税引後利益を親会社に配当するので、受取った親会社で再び課税されることはない。
アメリカでは古くからそうであったのが、日本では平成21年度になってからやっと、法人税法23条の2で外国子会社配当益金不算入制度、つまり、配当免税制度が創設された。トヨタやパナソニックなど世界に何百社と子会社を持つ企業にとっては朗報となり、日本の親会社へ海外子会社にたまった利益を還元させ、資金繰りにおおいに貢献させた。
ところが、日本企業の法人課税の実効税率が35%と外国に比べて高いことから、安倍政権は諸外国並みに税率引下げを謳った。しかし財務省など財源確保から、税率引下げと引換えに実質増税項目を探し始めた。日本をはじめアメリカやヨーロッパでは、配当できる原資は税引き後の利益であるが、国によっては配当金が損金算入されることがわかった。つまり税引き後の利益ではないのである。
そのため、海外子会社では損金算入した配当、日本では益金不算入、つまり二重非課税である。具体的に言えば、オーストラリアやブラジルなどにある子会社である。このため、日本の海外子会社の親会社に対しての配当益金不算入制度を見直す動きが政府税制調査会で出てきた。ごく一部の国が対象だろうが、これほど神経質に財源確保が必要だろうか。サミット参加国では意に介していないが、日本では来年度税制で今から重箱の隅をつつく議論になりそうである。
☆ 推薦図書 ☆
橘玲著 『タックスヘイヴン』 幻冬舎 1,700円+税
税を逃れるため、非居住者となるべく小説『永遠の旅行者』で著者は山本周五郎候補作となってデビューしたと記憶している。国際税務の抜け道を手段としてタックスヘイヴンの国、シンガポールを舞台とした小説である。シンガポールのスイス系プライベートバンクから1000億円が消えた。これには日本人のマネーロンダリング、特に反社会的な勢力であるヤクザ、北朝鮮、仕手株集団などが暗躍し、殺人事件まで発展する。本のタイトルであるタックスヘイヴンの解説より、むしろサスペンスドラマに似たフィクションである。400ページを超えるが読み応えがある。