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ヤフー裁判、国税局の勝ち?

会社の節税方法の一つとして、利益が多額にのぼるのであれば赤字を多く抱えている会社と合併し、その累積赤字と相殺して自社の利益を低くし、税金を少なくするという手段を考える経営者は少なくないはずである。

 

数年前にインターネット大手のヤフーがソフトバンクの100%子会社「ソフトバンクIDCソリューションズ株式会社」(以下IDCSという。)を買収し、子会社とした後、累積赤字540億円を抱えるIDCSと合併し、ヤフーの利益と相殺した。その後、東京国税局は、IDCSの抱える赤字はヤフーの利益とは相殺できないとし、ヤフーに540億円の申告漏れを通告して追徴課税を行った。それを不服とし、ヤフーが国税局を東京地裁に訴えたのである。

 

少し難しい話になるが、合併する子会社の赤字を引き継ぐことができるのは、「適格合併」と呼ばれ、赤字を引き継ぐことができない合併を「非適格合併」と呼ぶ。ヤフーの件は、「適格合併」になるための要件があり、それは「事業関連性要件」と「経営参画要件」である。そのうち「経営参画要件」とは、「合併前の被合併法人の特定役員(常務クラス以上の役員)のいずれかと合併法人の特定役員のいずれかとが合併後に合併法人の特定役員となることが見込まれていること」である。

 

そこでこれをクリアしようと、ヤフーは、IDCSを吸収合併する3か月前に、ヤフーの代表取締役がIDCSの非常勤で無報酬の代表取締役副社長に就任し、「常務クラス以上の役員が合併後の合併法人の常務以上の役員になることが見込まれていること」の要件を満たしているとして、IDCSの累積赤字を100%活用したわけである。

 

これに対して東京国税局は例によって伝家の宝刀である。法人税法132条の2を適用したのである。つまりこのような節税策を認めると「法人税の負担を不当に減少させる結果となる」という行為であると認定したのである。つまり、ヤフー代表取締役がIDCSの副社長の就任は形式的であり、実体を伴っていないからダメだというのである。

 

日本の課税当局は「節税を目的」とした行為は、たとえ税法の規定に抵触していなくても取り締まるというもの。しかし、租税法律主義に基づいていると公言している国税当局である。それならば、初めから税法で被合併法人の赤字は使えないと書くべきである。赤字法人の吸収合併は、そのほとんどがその赤字を使えるからであるのが理由である。多分、使える赤字額がケタ違いに大きかったから否認したのであろうが。アメリカなどでは新しい税法が出来る都度、その回避策を考える。タックスシェルターと呼ぶが、401Kもそうだが、形式的に違反していなければ、その行為の意図は問わない。欧米がそうである。

 

武富士事件も結局、最高裁で国税は負けた。武富士側は税金を免れようと、香港を活用した相続税対策であるが、税法に何ら抵触していないとして無罪とした。日本の税務当局は税法に抵触していようがいまいが、その行為の意図が税逃れを考えたのであれば、全てお上が罪するというのでは、法治国家とは言えないだろう。その面ではアメリカとは対極である。筆者は、この裁判は上告審ではヤフーが勝つと見ている。このような判断を司法がするのであれば、海外法人が恐ろしくて、いくら「特区」を作っても進出しないであろうことは想像に難くない。

 


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野口悠紀雄著 『期待バブルの崩壊』 ダイヤモンド社 1,500円+税


筆者はご存知の人で元大蔵官僚であり、エール大学でPh. Dを取得している。黒田日銀総裁の異次元金融緩和策で、日本の景気は回復したのか?、結果は否である。円安で自動車産業など輸出企業の株価は上がった。しかし実体は全然良くなっていない。売上高を見ても、全産業は0.8%、製造業は0.3%、非製造業は1.1%の伸びだけである。

安倍内閣は期待によって円安と株高を実現させたが、実体経済を動かすことはできなかった。報道でいうほど、日本経済は良くない。株価は上がらないだろうとしている。

 

 

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